[メモ][まとめ]ICT業界における垂直統合の回帰(モジュール化/オープン化の終焉)は日本企業にとってに追い風になるのか?-その1

日曜日, 6月 19, 2011

抜粋

t f B! P L
その1, その2, その3, その4
メモとしてまとめる。考察などは後回しにする。

タイトルはおもっきし、『モジュール化の終焉―統合への回帰』田中 辰雄: 本(Amazon)から。

この本で書かれていることのプレゼンは、RIETI - IT産業におけるモジュール化の終焉と統合への回帰 - iPadの意味するもの または,赤門マネジメント・レビュー 8巻5号 (2009年5月)〔研究会報告〕コンピュータ産業研究会 2009年1月15日 モジュール化の終焉と統合への回帰2 ―情報化の長期トレンド―[PDF]とか。

この本自体の感想はこれが一番客観的です。
  • 「モジュール化と統合化の二つの設計思想のうち、どちらを選択するか」
  • そもそも、統合化もmodularityも設計思想なわけだし。
  • というか、なによりも、アーキテクチャは権力である、という(ローレンス)レッシグの視点がすっぽり抜け落ちてしまうのは、今後の情報通信産業・事業の議論をする上では問題があるように思う。
『思想地図』に集まる人びとは『モジュール化の終焉』をどう捉えるのだろうか。 | JOURNAL | FERMAT


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で、"垂直統合"という言葉を知らなかった(知る気もなかった)自分としては、運悪くというか知ってしまった。で、この用語を軸に調べてみたら、そんなに情報量が多いわけでもない。かといって分かりやすい解説があるわけでもない。それはwikipediaを見てみれば分かる。垂直統合(ビジネス用語)

まず最初にこのページで知ったことは、垂直統合(Vertical integration)の反対は水平統合(Horizontal integration)ということ。水平分業の反対は語学的には"垂直集業"になるはず。ちなみに"集業"という日本語はない。この時点で少し混乱してた。

垂直統合というのは主に経営学/マネジメント用語
モジュール化というのは主に工学用語

その言葉を元に"統合化""水平分業""オープン化"という言葉が登場してきた。
これは製品とかサービスを説明するときに使われることが多い。
いわば主にビジネス用語。


あれ、でも、垂直統合とかものづくりでよく使われていなかったっけ?と思ったら、前までは、"摺り合わせ型"という言葉(反対は組み合わせ型)が使われていた。それがここ最近では垂直統合型製品みたいな謎の言葉が使われるようになってきた。

で、水平分業という言葉を英語で調べてみようとしたのが、検索結果の1ページ目で見つからない。どうやら、分業(division of labor)という言葉自体が、分担作業以外にも、ビジネスで使う場合には、あらじめ水平という意味合いも含んだ言い方で通っているように思える。

PC業界は、この分業というのを徹底的に工学した20世紀最後の工業製品だということ。ほぼあらゆるパーツに標準規格というのを決め、その成果がモージュル化(オープン・モジュール)として21世紀の今でも発展し続けている。
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  • パソコンはモジュール化の典型であり、主要な完成度の高いいくつかの部品に分かれてしまって、その部品そのものを組み立てれば、製品になるのである。CPUはアメリカで、ビデオチップはマレーシアで、メモリは台湾で、韓国で、というように各モジュールや部品が独立に専門のメーカーによって研究開発され生産されるようになったのである。
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  • しかし、そのことによりモジュール部品の付加価値は上昇し、ただそれを組み立てるだけでは収益が出なくなってくる。この現象をスマイルカーブ(smile curve)と言われ、部品をつくるところと、製品を販売するところの利益は出るが、組み立てをしているメーカーは儲からなく なる。こういう状況が結果に陥ってしまった。そしてその影響を受けたのが日本のメーカーであるといえる。組み立てを中心とする日本メーカーの収益力が、がたんと落ち、コスト競争力でアジアのメーカーに市場を侵食されてきたのである。

スマイル・カーブとは,横軸(左が上流,右が下流)にものづくりの業務プロセスを,縦軸に付加価値または利益率をとった曲線である。

左端はマーケティング・製品およびビジネスモデル企画,右端は販売やサービスを指す。

台湾のPCメーカーAcer(エイサー/宏碁電脳)の創業者スタン・シーが提唱した概念である。
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  • 90年代に入ると、垂直統合が通用しなくなった。それは IT 技術が進歩して、世界の生産技術にモジュール化が進んだからといえる。例えばパソコンはモジュール化の典型であり、主要な完成度の高いいくつかの部品に分かれてしまって、その部品そのものを組み立てれば、製品になるのである。
  • しかし、そのことによりモジュール部品の付加価値は上昇し、ただそれを組み立てるだけでは収益が出なくなってくる。この現象をスマイルカーブと言われ、部品をつくるところと、製品を販売するところの利益は出るが、組み立てをしているメーカーは儲からなくなる。
2004年12月18日(土) 河邑ゼミA班 第51回日本学生経済ゼミナール山口大学大会 『日本企業の国際競争力』~製品の国際性と地域性 相互の競争優位とその共通性~[PDF]

  • アップルのiPodはなぜ強いのか。「下流でもうかる要素は3つある。品質ビジネスモデルブランド力だ。音楽プレーヤーという同様の分野で、ソニーや松下電器産業は苦戦している。これら各社の製品も品質は間違いなく高い。しかし、ソニーはウォークマンの名で商品を出しているが、なぜ21世紀に、アナログ時代の名称をつけているのか。アップルは、音楽プレーヤーにマックとは名づけなかった。松下の場合、製品に力は入れているが、多くの楽曲を保存しようとすると大量のSDカードが必要になる」(同)。
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  • 伊藤教授は、品質が良好でも、ビジネスモデルに欠点があったり、ブランドを上手に構築できなければ、うまくいかないと指摘、「製品とプラットフォームビジネスモデルのバランスがよければもうかる」と強調する。
  • ポータブルオーディオ業界でスマイルカーブの左端に位置するのは、iPodを企画・開発したAppleになります。しかもAppleはiTunes Storeという右端のポジションも押さえているので、iPodファミリーという一つの製品群で莫大な利益を生み出しています。ご存知のとおりAppleという企業は工場を持たないファブレス企業で、MacもiPodもハードウェアの生産は、ファウンダリーやEMSと呼ばれる台湾や中国の生産専門メーカーが行います。自前で高い生産技術は持たなくても、製品の企画力と販売時のブランド力があれば利益は生み出せるというわけです。
スマイルカーブ:It's a ...:So-net blog

  • アップルのiPodやiPhoneの成功を見れば分かるように、消費者に価値を提供できる企業は、コスト競争に巻き込まれないで利益を確保できる。下流で成功するためには、ビジネスモデルブランド戦略が非常に重要な意味を持ってくる。
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  • (技術の)ソニーの機器も製品としてみれば素晴らしいものだろう。ただ、アップルのiTunesのような斬新なビジネスモデルがなかった。
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  • 90年代以降の(世界)市場の成熟化、経済のグローバル化、そして技術革新の中で、多くの産業でスマイルカーブの傾向が強くなった。こうした変化にもかかわらず、実に多くの企業が逆スマイルカーブの時代に確立したビジネスを未だに続けている。
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  • 日本にはきわめて多くの中小メーカーがあり、日本の製造業を支えている。しかし、経済のグローバル化が進み、製品のデジタル化が進めば、日本型の生産を支えた中流レベルの生産ネットワークは次第に希薄になってこざるを得ない。
第2回スマイルカーブでビジネスをとらえる

  • iPodの場合、端末機器としての性能やデザイン商品訴求力が高かったこと もあるが、米国では、iTunes(Store)という音楽ダウンロード・サービスのための「プラット フォーム・ビジネス」が提供され、各レコード会社がこれらを共通に利用したことに普及・成功の要因がある。
情報経済・産業ビジョン~「IT化の第2ステージ」 「プラットフォーム・ビジネス」の形成と5つの戦略 ~ 平成17年4月 産業構造審議会 情報経済分科会[PDF]

  • まず,避けなければいけないのは,前時代の垂直統合モデルを漫然と使い続けてしまうことだと思われる。そこから脱皮するポイントは,製品のものづくりの業務フローの中でどこかに集中してリソースを投入する,またはメリハリをつけることだ。
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  • ただ,垂直統合モデルから水平分業化への大きな流れは,一企業だけで制御できるものではない。どんなにブラックボックス化を進めても,産業規模が拡大するにつれて,基幹部品や装置の技術情報は水が高いところから低いところに流れるように伝播していき,必ず外販するメーカーが現れ,水平分業化をもたらす。
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  • 研究・開発(R&D)から製造、アフターサービスまでを一貫して事業内部に抱える垂直統合型の企業組織から、経営資源を付加価値の高い開発・設計などの「川上」や、販売やサポートなどの「川下」に集中させるこ とで経営の効率化をはかる。
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  • 生産を中心にした垂直統合型の経営モデルには限界があり、開発、生産、販売の機能を分化させ、付加価値の低いモノ作りの海外移転を進め、経営資源を開発と販売に集中させる「事業段階の選択戦略」をとる必要があるというものである。
電機総研研究報告書シリーズ N0.8 中堅・中小企業の事業再生戦略に関する研究 2005年10月電機連合総合研究企画室(電機総研)[PDF]


  • 1990年代前半までは、日本の20~30分の1といわれる低廉な労働コストに引かれた日本や欧米の企業が、自社の生産拠点を中国に設けるという従来型の海外生産のパターンが主流であった。垂直統合モデルにおいて生産機能のみが移転するという垂直型の分業である。
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  • ところが、90年代後半からは、IT、エレクトロニクス分野におけるオープン・アーキテクチャー化の進展を背景に、バリューチェーンのアンバンドリング(脱・統合)を進める欧米企業を中心として、EMS(電子機器製造受託サービス)企業やOEM(相手先ブランドによる生産)あるいはODM(相手先ブランドによる設計・生産)企業など、自社と資本関係のない企業に生産を委託するという水平型の分業が進み、それら受託企業が中国に生産拠点を拡大するという新しいパターンが台頭してきた。
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  • つまり、バリューチェーンにおける「スマイル・カーブ」のボトム―比較的付加価値の低い加工・組立の部分―がEMS企業等に積極的にアウトソーシングされ、それを中国が一手に引き受けるという構図である。こうした水平分業は、単に中国の低廉な労働力を活用するだけでなく、そこにEMSの量産効果というレバレッジを利かせることで、さらなる低コストを実現する。
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  • 日本のエレクトロニクス企業の多くは従来型の垂直統合モデルに固執するあまり、このオープン・アーキテクチャー化、水平分業化への対応において欧米企業に立ち遅れ、それが日本企業の国際競争力を低下させる一因となった。2000年代に入り、ようやく日本企業もEMS等への生産委託を増やし始め、同時に国内工場を閉鎖したり、あるいは自らがEMS化を目指すなど、水平分業化に対応した事業再編に取り組み始めた。
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  • ここ数年の「中国脅威論」とそれに伴うわが国製造業の先行き悲観論から、一転して「日本製造業の復活」「ものづくり大国日本の復権」といった力強い論調が目立つようになってきた。しかし、こうした楽観的な論調は、エレクトロニクス産業を中心に進行中のオープン・アーキテクチャー化という産業構造の変革に対する冷静な視座をともすれば見失わせることになりかねない。
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  • これら楽観論の依拠するところは「高難度・高付加価値の部品・製品は国内でなければ作れない」という認識のようだが、かつては日本のお家芸といわれた半導体や液晶パネルといった分野における現在の主力プレーヤーが韓国・台湾勢であることを思えば、さほど説得力のある論拠とは思えない。
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  • また、半導体や液晶といった高付加価値製品であっても、そのノウハウは製造装置に体化されている部分が多く、製造装置を購入することでかなりの部分キャッチアップが可能である。
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  • 技術のコモディティ化の期間が短くなりつつある状況においては、技術競争とコスト競争が同時に生じることになる。いわばスマイル・カーブのボトム(低付加価値の部分)が広がって、川上と川下だけがきゅっと吊り上がった、アルカイック・スマイル(古典的な微笑)のような形へと変化しつつあるといってよいだろう。
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  • 次世代の技術開発で他社に先行していくための戦略が、技術のコモディティ化が急速に進む時代には不可欠なのである。しかし、この点において少なからぬ日本企業が、「選択と集中」の名の下に、事業のみならず研究開発、特に次世代技術の研究分野において領域の絞込みを行うという誤りを犯した。研究開発、特に次世代技術のような不確実性の高い分野においては、ある程度幅広にベット(賭け金を張る)しておくべきであり、やみくもに「選択と集中」をすればよいというものではない。

東洋経済新報社主催 第 20 回 高橋亀吉記念賞(テーマ:アジアの時代―日本の進路) 優秀作受賞(週刊東洋経済 2004 年 11 月 20 日号掲載)
グローバル競争における地域イノベーション戦略の重要性 21世紀政策研究所研究主幹 辻田 昌弘
http://www.keidanren.or.jp/21ppi/pdf/thesis/041122.pdf
http://www.toyokeizai.net/corp/award/takahashi/2004/tsujita.php

  • iPodはデザイン使用感のよさ(UI)で売れたのではないでしょうか。
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  • 日本ではデザインの重要さをみんな分かっていながら、なぜ企業でもっと真剣に議論されないかというと、一番の理由はデザインの良さの評価やそれと売上げの因果関係が良くわからない場合が多く、マネジメントの努力に対するリターンの不確実性が高いからです。
RIETI - モジュラー型製品における日本企業の競争力――中国情報家電企業における組み合わせ能力の限界(2005年)延岡 健太郎 ファカルティフェロー/神戸大学経済経営研究所教授

  • 多くの日本製品の設計は従来、過剰設計気味でした。
  • アーキテクチャは製品ごとに固有に決まっているものではなく、最後は顧客や社会が決めるものです。
  • 擦り合わせが成り立つのは、擦り合わせ製品なら多少高くても買う顧客がいるからです。
  • ついては、どんどん共通部品や標準部品に切り替えるべきです。しかし、大切なのは、安易に(中略)しないことです。アーキテクチャは、あくまでも、社会の要請や市場・競争に基づき決めるべきです。
RIETI - 震災対応とものづくり現場発の国家戦略(2011年)藤本 隆宏 (東京大学 ものづくり経営研究センター センター長/東京大学 大学院経済学研究科 教授)


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かつてはソニーがウォークマンで世界を席巻してたのに、気づいたらアップルは市販部品を組み立ててiPodつくって儲けてた。そのころソニーは「著作権がー」「新規格がー」なんて世迷言ぬかしながらせっせとMDを作ってた。
http://twitter.com/#!/Gusoh/status/37783844824285184


はい。あとMD事業部もあったし。 RT @koganehakogame: 出井前社長はIpod技術はソニーはその2年前に持っていた。ただ、ソニーミュージックを抱えていたため、遠慮としがらみがあり事業化しなかった、とワールドビジネスサテライトでも話されてましたね。
http://twitter.com/#!/hoshibay/status/13604710634



------メモみたいな考察開始------

垂直統合の議論について紛らわしいのは、製品とサービスの両方に用語を使っていること。(垂直統合型製品,垂直統合型サービスなど)。
まず、製品で使っているのは、要は、摺り合わせ型という言葉を垂直統合型へ言い換えたりしている。次にサービスについても製品と同じとなると、垂直統合型サービスと言っているが要は摺り合わせ型サービスとなってしまう。しかしこの言葉を使っている人はまったくといっていいほどいない。

何が問題かというと、日本の製造業の強みである摺り合わせ(自動車業界,家電)
の考察や論文などを、日本のICT業界にも当てはめようとしていること。これが混乱の元とか。

組み合わせは英語ではモジュラー(modular)
摺り合わせとは英語ではインテグラル(integral)

上記はあくまでも製造について使うことはあっても、サービスについて使うことはない。なのに、垂直統合と摺り合わせ(インテグラル)の感覚でサービスについても当てはめようとする。(ここでいうサービスとは日本独自のサービスなど:例 日本のケータイサービス)「統合的なサービスは日本が得意としている」というように。

ほう、日本は自動車などのものづくりだけではなく、ICTサービスなどでも統合的なのを得意としていたのか。なら、この先、日本企業にもチャンスがあるかもな。……なにか腑に落ちない。ガラバゴスという言葉が出てきた理由はなんなのか。

アップルは製品の企画,設計サービスの提供の2つ(両端)を事業の柱にしている。これは最初のスマイルカーブでも説明されてきている。
日本企業はこの2つとも(両端)で国際市場で負け犬になっている。

過去に日本が得意と言われていた、ものづくりの垂直統合を同じ製造やサービスにそのまま適用するのは時代遅れだと思う。

今は、"スマイルカーブの両端を押さえる"ことを"新しい垂直統合型"だと指すのだと思う。

------メモみたいな考察終了------


と、スマイルカーブの説明ばっかしの内容になってきたし、そもそもの、垂直統合の回帰(モジュール化/オープン化の終焉)についてさして説明していない。クリステンセンの破壊的イノベーションやアッターバックのドミナント・デザインについてからのまとめはその2にする。

 [メモ][まとめ]ICT業界における垂直統合の回帰(モジュール化/オープン化の終焉)は日本企業にとってに追い風になるのか?-その2


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